地下鉄にのって、写真雑誌を読んでいた。
目は特に雑誌の文章を追いかけているわけでもなく、ぼんやり外を眺めたりして、考え事をしながらの雑誌読み。地下鉄丸ノ内線はいろんな人が乗車している。座席に座って雑誌に目を向ける。いまひとつまだ記事に集中できない。
二つめの駅を過ぎようとしている頃、目の前に上品なおばあさんが立っていた。気がつかなかった。少し慌てて「すみません。気がつきませんでした。どうぞ」と席を譲った。ドアに一番近い端の席だったので、そのまま立ち上がってドアにもたれかかって、再び雑誌に目を落とす。
少し集中できそうな気がしたがドアの窓から流れる地下の壁に光が反射してイライラする。
さらに駅を二つくらい。ドアが開く度に、人の出入りにあわせて雑誌を閉じるのでますます集中できない。中年の女性が降りていく。その降りる間際に、「隣空きましたよ。」とニッコリ笑ってボクに告げた。
さっき席を譲ったおばあさんの隣に座っていた女性。「あ、そうですか。ありがとうございます。」なんとなく車内で気まずい感じがしないでもないが、席を譲ったおばあさんの隣に再び腰掛ける。
「さっき、ありがとうございます」とその上品なおばあさんが言うので「いえ…」とだけ答えて、再び写真雑誌を開く。すると「カメラお好きなの?」。「ええ…」
おばあさん:アタシの家にも古い二眼レフがあってね。お金に困ったら売ろうと考えているのだけど、もう古いし、随分使っていないから、写らないかもねぇ。主人がストロボ焚いて写していたのよ。ストロボはどっかいっちゃってないからもう写せないでしょうね。
ボク:あ、あ…そうなんですか。いや、昔のフィルムだとストロボ必要だったかもしれないですけど、フィルムがよくなっているので、充分、写せると思いますよ。
おばあさん:そうなの?売ろうと思ってもねぇ。どこに売っていいかわからないし、主人が新婚旅行に行ったときに買ったもので、思い出も多いから、なかなか手放せなくって…。
ボク:あー、思い出たくさんあるんでしょうね。昔のアルバムみるとキレイに写ってますか?
おばあさん:そりゃね。ちゃんと写っているわよ。
今のフィルムよくなっているのだったら、古いカメラでもちゃんと写るかもしれないわね。やってみようかしら?
あなたも古いカメラで撮影するの?
ボク:ええ、父の生まれた年のカメラ使ってますけど…
おばあさん:それどれくらい前のカメラ?
ボク:60年以上前です。
おばあさん:すごいわね。じゃあアタシのもつかえるわね。
と、なんとなくイライラしていた自分がこの上品なおばあさんとのちょっとした会話の中でリラックスしてくるのがわかる。なかなかこんな上品に話ができるのは、昔のひとだからかなぁ…と感心もする。きれいな日本語。
ちょっとした時間の中で、ましてや地下鉄の中って人がたくさんいるのにその人数のわりには静かな場所で、こんな会話ができるとは思っていなかったので、ちょっと嬉しくなる。
おばあさんが立ち上がろうとする。新宿駅に着く直前。おばあさんは手に持っていた二枚のチラシをボクに渡してこういった。
「もうすぐ世界は大変なことになります。あなたも注意してくださいね」
そのチラシにはこう記されていた。
「すべての苦しみはまもなく終わる」
ボクは、再びイライラした。世界の悲惨。
ひさしぶりである。
上品なおばあさんが地下鉄に乗るのが日本という国。
示唆的な話やねぇ。
投稿情報: とみ | 2008年2 月24日 (日) 07時09分
電車の中って、他人を人として扱わない、そんな人が多いような気がする。
通勤客や学生だけじゃない、通学の子供ですらそうだ。
まあ、これは、あたりまえか、お手本がいるんだから。
森さんとおばあさんは、互いが人だったから交流が生まれたんだよね。
モノとは話さないもんね。
どうでもいいものとは、話さないよね。
そこに居ないのと同じなんだから。できれば居て欲しくないんだから。
投稿情報: 純希 | 2008年2 月29日 (金) 03時29分